結論:削除されたのではなく、分類上の位置が変わりました
場面緘黙は、ICD-11で「なくなった」わけではありません。
ICD-10では「小児〈児童〉期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害」の中に位置づけられていましたが、ICD-11では分類体系が大きく再編され、その中で場面緘黙は別の中項目に整理される形になりました。
この分類変更が、発達障害者支援法との関係を考えるうえで分かりにくさを生んでいます。
ICDとは何ですか
ICDは、世界保健機関(WHO)が定めている国際的な疾病分類です。
正式には「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」と呼ばれ、異なる国や地域で疾病の記録や比較ができるようにするための共通の基準として使われています。
日本でも、医療や統計における疾病分類はICDに準拠しており、制度や支援の考え方にも影響を与えています。
ICDは改訂を重ねており、長く使われてきたICD-10に続いて、新たにICD-11が公表されました。
この改訂によって、場面緘黙の分類上の位置づけも変わっています。
ICD-10ではどこに分類されていたのか
まず、これまで使われてきたICD-10での位置づけを確認します。
ICD-10では、場面緘黙は F94.0「選択性緘黙」に分類されていました。
F94 は「小児〈児童〉期及び青年期に特異的に発症する社会的機能の障害」であり、さらにその上位には F90〜F98「小児〈児童〉期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害」があります。
ICD-10における分類
F90〜F98:行動及び情緒の障害
└ F94:社会的機能の障害
└ F94.0:選択性緘黙(場面緘黙)
つまりICD-10では、場面緘黙は「行動及び情緒の障害」の中に位置づけられていたことになります。
ICD-11では何が変わったのか
ICD-11では、従来のアルファベットと数字4桁による構成が大きく見直され、分類の作りそのものが変わりました。
場面緘黙は、ICD-11では大項目「Mental, behavioural or neurodevelopmental disorders(精神、行動又は神経発達の障害)」の中にある
「Anxiety or fear-related disorders(不安又は恐怖関連の障害)」に位置づけられています。
一方で、自閉スペクトラム症やADHDなどは
「Neurodevelopmental disorders(神経発達障害群)」に整理されています。
ICD-11における分類(簡略)
Mental, behavioural or neurodevelopmental disorders
(精神・行動・神経発達の障害)
├─ Neurodevelopmental disorders(神経発達障害群)
│ ├ 自閉スペクトラム症(ASD)
│ ├ 注意欠陥・多動性障害(ADHD)
│ └ 学習障害 など
│
└─ Anxiety or fear-related disorders(不安または恐怖関連の障害)
└ 場面緘黙(Selective Mutism)
つまり、ICD-11では、場面緘黙は神経発達障害群ではなく、不安または恐怖関連の障害の側に分類されるようになりました。
この分類上の移動が、発達障害者支援法との関係で場面緘黙をどう位置づけるかという論点につながっています。
「削除された」とはちがうということ
ここで重要なのは、ICD-11で場面緘黙が「削除された」のではない、という点です。
場面緘黙は引き続きICD-11の中に存在しています。
変わったのは、その分類上の位置です。
ICD-10では、発達障害者支援法の運用とつながりやすい位置にありました。
しかしICD-11では、不安または恐怖関連の障害の側に位置づけられたため、制度運用との関係が分かりにくくなりました。
なぜこれが制度上の論点になるのか
発達障害者支援法は、現在もICD-10を前提とした整理で運用されています。
そのため、場面緘黙は現時点では発達障害者支援法の対象として扱われています。
しかし、将来的にICD-11への移行をどのように制度へ反映するのかによっては、支援対象の考え方が狭まるのではないかという懸念が生じてきました。
実際に、ICD-11への改訂を踏まえた発達障害者支援のあり方に関する報告でも、場面緘黙などが対象から漏れることへの懸念が示されています。
医療分類と制度上の分類は同じ
ここで大切なのは、医療上の分類と、法律や支援制度の枠組みは、必ずしも同じではないということです。
医療分類は、診断や研究のために整理されます。
一方で、制度上の分類は、どのような支援が必要か、どのように支援を届けるかという観点で作られます。
そのため、医療分類が変わったからといって、直ちに支援の枠組みも同じように変わるとは限りません。
しかし逆に、その違いが十分に理解されていないと、支援の対象が狭く受け止められてしまう危険があります。
【静岡 場面かんもくの会】として大切にしたい視点
【静岡 場面かんもくの会】では、分類の違いそのものよりも、本人の困りごとに対して必要な支援がきちんと届くことが大切だと考えています。
場面緘黙は、分類上どこに位置づくかだけでなく、実際に学校や社会生活の中で困りごとが生じ、支援や合理的配慮が必要になる状態です。
そのため、分類の変更があっても、支援の必要性まで狭められてよいとは考えていません。
まとめ
- ICD-10では、場面緘黙は F94.0「選択性緘黙」に分類されていた
- ICD-11では、「不安又は恐怖関連の障害」の中に整理されている
- 場面緘黙が削除されたのではなく、分類上の位置が変わった
- ASDやADHDなどと分類が変わったことで、発達障害者支援法との関係で懸念を生んでいる
参考資料
さらに詳しく知りたい方へ
場面緘黙の分類や制度をめぐる考え方は、ICD-11への改訂などにより、現在も議論が続いています。
詳しくは以下の記事で整理しています。
場面緘黙は発達障害者支援法の対象ですか?
発達障害者支援法はなぜ作られたのか
