家庭から始める具体的な支援:見立て・発話への準備・学校連携の進め方

このページで扱うこと

このページでは、場面緘黙のある子どもに対して、保護者の立場で家庭からどのように支援を進めていくかを具体的に整理します。

大切なのは、現在の状態を整理し、目標を定め、できる一歩を積み重ねていくことです。

ここでは、発話に至るまでの段階、学校との連携、家庭外への広げ方を順に見ていきます。

最終目標を先に考える

場面緘黙の支援では、「話すことだけを目的にしない」とよく言われます。

ただし実際には、困難の多くは、発話ができるようになることで大きく軽減されます。

そのため、どの場面で誰と話せるようになることを目指すのかを、具体的に最初に考えておくことが重要です。

たとえば、

  • 教室でみんなの前で音読発表ができるようになる
  • 職場で仲の良い先輩に挨拶が出来るようになる

など、本人が求める最終目標を設定します。

最終目標は今の状態から頑張って3か月後に達成できるといった期間も設定しておきます。

そして、常にこの目標に向かって、そこに至るまでの取り組みを組み立てていきます。

発話前の取り組みが必要なとき

声を出すこと自体が難しい場合、いきなり話す練習を始めても進みにくいことがあります。

その場合は、発話に至るまでの段階を踏む必要があります。

たとえば、

  • うなずく
  • 指さしをする
  • ジェスチャーで示す
  • 口パクで答える
  • 小さな声を出す

といったように、少しずつ発話に近づけていきます。

この段階は学校現場では実践が難しいことも多く、
通級指導教室や支援教室、心理士などの関わりが必要になる場合もあります。

無理に先へ進めるのではなく、今どの段階にいるのかを見極めることが大切です。

人・場所・行動に分けて現在地を整理する

現在の状態を整理する際は、【人】【場所】【行動】に分けて考えます。

まずは身近な【人】について、誰となら話しやすいかを整理します。

  • きょうだい
  • 祖父母
  • いとこ
  • 担任
  • 養護教諭
  • クラスの友達
  • 近所の子ども
  • 店員
  • 習い事の先生

など、この中で最終目標は誰かを考慮して、そこに至るまでの対象を話しやすさ順に並べてみます。

その際、「誰と話しやすいか」ではなく、どちらの方がより難しいかを聞き取るとよいでしょう。

場面緘黙のある子どもにとっては、
「どちらも話せない」という感覚になりやすく、比較が難しいためです。

  • 母ときょうだいではどちらが難しいか
  • いとこと祖父母ではどちらが難しいか
  • 担任と友達ではどちらが難しいか

という形で比較していきます。

こうして並べることで、
「全部難しい」の中にある差が見えてきます。

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同じように、最終目標の場所に対して、それまでに練習場所として設定できそうな場所を整理します。

たとえば、普段の授業中の教室内で話すことが目標であれば、

  • 放課後の教室
  • 休み時間の空き教室
  • 授業中の教室内

といった形で、取り組みに使う場所を段階的に考えます。

また、家庭での取り組みに使える場所として、

  • 自宅
  • 自宅の前
  • 祖父母の家
  • 近所の公園
  • お店

なども含めて整理しておくとよいでしょう。

行動については、現在できていることを基準に整理します。

たとえば、

  • うなずくことはできる
  • 指さしはできる
  • 口パクはできる
  • 声を出すのは難しい

といった形です。

ここから、少しずつ目標に向けての取り組みを作っていきます。

人・場所・行動は、それぞれ単独ではなく、組み合わせで困難度も変わります。

今できている組み合わせを土台に、違う組み合わせをつくり、取り組みを進めていきます。

次の一歩を決める(本人との共同作業)

取り組みは、保護者が一方的に決めるものではなく、
本人との共同作業として進めることが基本です。

次の一歩は、

  • 今できている条件からほんの少しだけ難しい
  • 本人ができそうだと思える
  • 成功する可能性が高い

という範囲で設定します。

ここで大切なのは、
すべての取り組みは、大きな目標に向かっている必要がある
また成功できるという確信を持ってのぞむ
ということです。

目標から外れた取り組みを増やすのではなく、目標につながる流れの中で、

「人」「場所」「行動」を組み合わせながら、確実にできることの細かなステップを設定していきます。

取り組みの具体例


目標:放課後の教室で、先生の前で音読発表をする

取り組みの組み立て方の一例
場所:「放課後の教室で」は共通事項とする

  • 放課後の教室で、保護者の前で音読をする。
  • 先生が廊下を通りかかるが、保護者の前で音読を続ける。
  • 先生が教室の窓を閉めに入ってくるが、保護者の前で音読を続ける。
  • 先生が後ろの離れた席に座るが、保護者の前で音読を続ける。
  • 先生が隣の席に座るが、保護者の前で音読を続ける。
  • 保護者と先生が座って聞いている状態で、小さな声で音読をする。
  • 保護者と先生が座って聞いている状態で、少し大きな声で音読をする。
  • 保護者が先生よりも離れている状態で、先生の前で少し大きな声で音読をする。
  • 保護者がいない状態で、先生の前で少し大きな声でをする。
  • 放課後の教室で、先生しかいない目の前で、普通の声で音読をする。

成功体験を積み重ねる

場面緘黙の支援では、
成功体験を積み重ねながら、少しずつステップを進めて目標を目指していく
ことが大切です。

そのため、取り組みは基本的に「成功する前提」で組み立てます。

たとえ保護者から見て「うまくいかなかった」と感じても、

  • 前より反応が数秒早かった
  • 声の大きさが少し上がった
  • 前回よりためらいが少なかった

といった変化は、十分に成功として扱うことができます。

このように、
できたことを成功として本人に返していくこと
が重要です。

うまくいかなかったと感じたときの考え方

取り組みの中で止まってしまったときも、
それを失敗として扱わないことが大切です。

必要なのは、
条件がまだ少し難しかったのだと捉え直すことです。

その場合は、

  • 人を変える
  • 場所を変える
  • 行動の段階を下げる
  • 一段前のステップに戻る

といった形で、取り組みを練り直します。

難しすぎる取り組みは、
一段下がって組み直すことも自然な流れです。

本人が納得することが大切

すべての取り組みは、
本人との共同作業で進めます。

こちらがよいと思って決めた内容でも、
本人に納得感がないままでは、成功体験としての効果が弱くなりやすくなります。

そのため、

  • これならできそうか
  • 次はどこまでならやれそうか
  • 今の取り組みでよいか

を本人と確認しながら進めます。

本人が「できた」と感じること、「またやれそう」と思えることが、次につながります。

成功の実感を高める工夫

成功体験は、保護者がきちんと見つけて返していくことで、より強くなります。

そのために、活動の記録として取り組み内容を記載したり、「コミュニケーションのはしご」に取り組んできたステップを記入する。

また、シール・メダルなどの簡単な「トークン」を与えて、見える形で積み重ねる方法があります。

これは一般に、**トークンエコノミー(トークン強化法)**と呼ばれる考え方で、
できた行動に対して「目に見える形の報酬(トークン)」を与え、それを積み重ねることで行動を強化していく方法です。

たとえば、

取り組みができたらシールを1枚貼る
数枚たまったら小さなご褒美につなげる

といった形で運用します。

ここで大切なのは、

難しいことができたときだけ与えるのではなく、
取り組みに参加できたことや、わずかな前進にも使うことです。

また、トークンだけで終わらせず、

よくその場にいられたね
前より少し早く反応できたね
小さい声でも出せたね

といったように、
過程を言葉で認めることをあわせて行うことで、成功の実感が高まりやすくなります。また、成功したときは、結果だけでなく、そこまでの過程を認めて褒めることも大切です。

過程と結果の両方を認めることで、成功の実感が高まりやすくなります。


学校と共有し、協力を得る

支援を進めるうえで、学校との連携は重要です。

学校での困難が大きいため、取り組みの中心も学校になります。

面談では、

  • 現在の状態
  • 家庭での取り組み
  • できることと難しいこと
  • これまでの経過
  • 好きなこと・苦手なこと

などを整理して共有します。

そのうえで、必要な配慮(席の場所や発表・評価の方法)を相談します。

また、発話への取り組みが可能であれば、担任の先生や学校管理者に取り組みへの参加もお願いするとよいでしょう。

学校での取り組みについてはこちらにまとめています。

学校を主な取り組み場所として考える

多くの場面緘黙児にとって、困りごとの解決方法としての取り組みは学校現場での取り組みとなります。

放課後の教室の使用や、少人数グループでの交流、複数の先生との関りなど、学校との関係は、協力関係として進めることが大切です。

学校側の状況も踏まえながら、どうすればよりよい環境を実現できるかを一緒に考えていきます。

必要に応じて、学校教育課や支援課などの相談窓口があることも知っておくとよいでしょう。

家庭の外へ広げる取り組み

家庭でできることが少しずつ見えてきたら、その条件を土台にして、家庭の外へ広げていきます。

ここで大切なのは、いきなり難しい場面に入ることではなく、
家庭に近い条件から少しずつ外へ広げることです。

友達とのつながりを広げる

友達とのつながりは、場面緘黙のある子どもにとって大きな課題になりやすい部分です。
そのため、最初から自然に関係ができることを期待するのではなく、保護者や学校の支えの中で、つながりを作っていく視点が必要です。

たとえば、

  • 学校の先生に、比較的安心しやすそうな相手を見立ててもらう
  • 最初は自宅に1人だけ呼ぶ
  • 保護者も一緒に場に入り、遊びの流れを作る
  • 慣れてきたら、少しずつ保護者がその場から離れる
  • 次は近所の公園や放課後の校庭など、少し外の場所に広げる
  • さらに可能なら、相手の家に行くことを目標にする

遊びの内容としては、

  • カードゲーム
  • ボードゲーム
  • テレビゲーム
  • お絵描き
  • 工作

など、自然にやり取りが生まれやすいものが向いています。

親族とのやり取りを広げる

親族は、家庭の外に広げる中間的な相手として活かしやすいことがあります。
家族ほど近くはないが、学校や公共の場ほど遠くもないためです。

たとえば、

  • 祖父母の家で短く返事をする
  • 叔父叔母にあいさつをする
  • いとこと一緒に遊ぶ
  • まずは電話で一言だけ話す
  • 電話で「もしもし」「うん」「ありがとう」などの短いやり取りをする
  • 慣れてきたら、電話の相手と対面でも同じようなやり取りをしてみる

といった形です。

直接のやり取りが難しい場合でも、電話から始めることで進めやすいことがあります。

課外活動に参加する

子どもの状態によっては、課外活動が支援の大きなきっかけになることがあります。
ただし、課外活動は負担も大きいため、本人の状態を見極めたうえで進めることが大切です。

たとえば、

  • 文化系の活動(絵画教室、書道教室、ピアノ教室)
  • スポーツ系の活動(スイミング、体操、球技)
  • 勉強系の活動(塾、くもん教室)
  • 趣味や単発の活動(スカウト活動、体験イベント)

などがあります。

ここで大切なのは、発話がすぐに見られなくても、
場に参加できること自体に意味がある場合がある
という視点です。

また、始める前には、

  • 事前に指導者へ状況を伝える
  • 特別扱いしすぎず、でも無理はさせない方針を共有する
  • 最初は短時間や体験参加から始める

といった準備があると進めやすくなります。

公共の場でのやり取りを増やす

公共の場では、生活の中で必要になる短いやり取りを目標にしやすいです。

たとえば、

  • レストランで注文する
  • 店員さんに「ありがとう」と言う
  • スーパーやコンビニで「〇〇はどこですか」と聞く
  • 受付で名前を言う

といったものです。

こうした場面は、将来にもつながる実用的なやり取りになりやすいです。

ただし、いきなりその場で求めるのではなく、

  • 家で言う内容を決めておく
  • 家で店員役をして練習する
  • 最初は一番短いやり取りだけにする
  • 一度に全部ではなく、一部分だけを目標にする

といった形で、負担を小さくして始めることが大切です。

学校の周辺を使う

家庭と学校の間をつなぐ場所として、学校の周辺を使うことも考えられます。

たとえば、

  • 放課後の校庭
  • 人の少ない時間の公園
  • 学校の空き教室
  • 放課後の教室

などです。

特に、最終目標が学校での発話である場合は、
家庭と学校の間をつなぐ場として、こうした場所が使いやすいことがあります。学校以外でも取り組みを広げることができます。

記録して続ける

取り組みは、記録しながら進めることで見通しが持てます。

  • できたこと
  • 難しかったこと
  • 次にやること

を簡単に記録していきます。

できたことを積み重ねることが、次につながります。

場面緘黙とは

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