このページで扱うこと
このページでは、場面緘黙のある子どもに対して、学校でどのように支援を進めていくかを整理します。
ここで扱うのは、教室の中でどのような配慮が考えられるか、どのように支援を組み立てていくか、評価をどう考えるか、といった内容です。
細かな設定や家庭からの進め方まで含めた実践の組み立て方については、保護者向けの記事でも詳しくまとめています。
このページでは、学校現場で共有しやすい考え方と実例を中心に整理します。
学校は主な取り組みの場になる
場面緘黙のある子どもは、家庭では話せても、学校では返事、発表、質問、友だちとのやり取り、助けを求めることなどが難しくなることがあります。
そのため、困難が大きく現れる学校が、支援の主な取り組みの場になることが多いです。
家庭での支援は大切ですが、学校での困難を軽減するためには、学校の理解と関わりが欠かせません。
学校での支援は、保護者と学校の協力で進める
場面緘黙の支援では、学校での困難が大きく、取り組みの主な場も学校になります。
一方で、家庭での様子やこれまでの経過、本人が安心しやすい条件を最もよく把握しているのは保護者です。
そのため支援は、どちらか一方が担うものではなく、保護者と学校がそれぞれの役割を持ち寄りながら進めていく形になります。
保護者は、家庭での様子の整理、これまでの経過の共有、目標や取り組みの方向の整理を担い、学校は、教室での環境づくり、日常場面での関わり、学校内での取り組みの実施を担います。
また、スクールカウンセラーや通級指導教室、外部の支援者が関わることで、支援が進めやすくなることもあります。
ただし、そうした支援が十分に入らない場合でも、学校と保護者の連携によって進めていくことは可能です。
大切なのは、どちらかに任せきりにするのではなく、それぞれの立場でできることを持ち寄ることです。
この前提が整うことで、その後の見立てや取り組みも進めやすくなります。
保護者に出来る取り組みについてはこちらにまとめています
最初に行うこと:学校で見えている状態を整理する
学校で支援を始めるときは、まず「学校でどのような困りごとが見えているか」を具体的に整理します。
たとえば、
- 返事ができない
- 挙手はできても指名されると止まる
- 発表が難しい
- トイレや体調不良を伝えられない
- 友だちとのやり取りに入りにくい
- 音楽、体育、給食で動きが止まりやすい
といったことです。
また、
- 発話があるかないか
- 一対一でも難しいのか
- 人前だと難しいのか
- 緊張で身体も固まっているのか
といった点も見ておきます。
家庭では普通に話していることも多いため、学校での様子は学校から具体的に伝えなければ、保護者に十分伝わらないことがあります。
この段階では、「話しません」だけではなく、どの場面で、どのような困りごとが出ているかを具体的に整理することが大切です。
まずは安心できる環境を整える
学校で支援を始めるときは、最初から発話を求めるのではなく、まず現在の状態を見極めます。
場面緘黙のある子どもの中には、発話がほとんど見られないだけでなく、強い緊張によって表情や動きまで制限されている場合があります。
そのようなときは、取り組みの前に、まず安心できる環境を整えることが優先になります。
たとえば、
- 席の位置を調整する
- 安心しやすい子どもを近くに配置する
- 必要に応じて補助の先生や支援員が関わる
- 大勢の前で急に反応を求めない
- 短い確認や関わりを積み重ねる
- 保健室や空き教室など、負担の少ない場所を使えるようにする
といった対応が考えられます。
ここで大切なのは、
「話せる」「話すようにする」のではなく、
緊張が下がり、関わりを受け止められる状態を作ることです。
学校での支援の目的を共有する
学校での支援は、「とにかく話させること」ではありません。
学校生活の中で困っていることを減らし、本人が力を出しやすい条件を整えていくことが目的です。
ただし、学校での困難の多くは、最終的に発話が可能になることで大きく軽減されます。
そのため、どの場面で、誰に対して、どのような発話ができるようになることを目標にするのかを共有しておくことが重要です。
この目標は、学校だけで決めるのではなく、保護者や本人とも共有しながら設定していきます。
学校での支援の組み立て方
人・場所・行動の組み合わせで考える
支援は、「話せるか、話せないか」で大きく分けるのではなく、「人」「場所」「行動」に分けて考えると整理しやすくなります。
たとえば「人」では、
- 担任
- 養護教諭
- 支援担当の先生
- クラスメイト一人
- 小グループ
- クラス全体
場所では、
- 空き教室
- 放課後の教室
- 保健室
- 通常の教室
行動では、
- うなずき
- 指さし
- 口パク
- 小さい声
- 録音で答える
- 短い返答
- 簡単な発表
などがあります。
これらは単独ではなく組み合わせで変わります。
たとえば、「クラス全体×通常の教室×簡単な発表」といった「朝の挨拶」が難しいようなら、
「小グループ×通常の教室×小さな声・短い返答」のように相手と行動を変えてみる。
このように、条件を整理して考えることで、出来ないことも出来るように、ステップを組む設定をしやすくなります。
支援の階段は小さく設定する
取り組みは、大きく飛ばすのではなく、小さな階段で設定します。
最初から教室全体で話すことを目標にするのではなく、
- 一対一
- 一対一+安心しやすい先生
- 一対一+クラスメイト一人
- 小グループ
- クラス全体
というように、少しずつ条件を広げる考え方が役立ちます。
また、行動についても、
- うなずき
- 指さし
- 口パク
- 小さい声
- 一語
- 短い返答
といった形で、一段ずつ考えると進めやすくなります。
先生が行いやすい形に整える
学校での支援は、先生の負担の大きさも考慮しながら進める必要があります。
そのため、
- 短時間でできる
- 教室内や放課後に実施しやすい
- 関わる先生を広げすぎない
- 継続しやすい形にする
といった視点も大切です。
「理想的な方法」よりも、「現実に継続できる形」を意識する方が支援は続きやすくなります。
具体的な支援例
ここで【静岡 場面かんもくの会】の会員の方のお子さんに対して、担当の先生が行った具体的な支援の例を紹介します。
- 支援の対象:Aさん
- 支援の目的:教室内での小グループへの発表・簡単な受け答えの実施を出来るようにする
- 支援の前提:担任の先生相手になら受け答えが出来る状態
- 支援の方法:先生と二人の場に、新たにクラスメイトを加えた状態で声を出す練習
具体的な支援方法
【人】【場所】【行動】の設定とフェーディング
【人】担当の先生➡クラスメイト
【場所】休み時間内の空き教室➡教室内
【行動】問いかけに「はい」と答える➡音読発表をする
- 「空き教室」で「先生」と「Aさん」の二人きりで「音読の練習」をする。
- 「空き教室」で「先生」と「Aさん」とクラスメイトの「Bくん」の三人いる状態で、
名前を呼ばれて「はい」と答える。簡単な「返事」の練習・慣れてくると「音読の練習」をする。 - Bくんの代わりに、Cさんを入れて同じように練習をする。
- Cさんの代わりに、Dくんを入れて同じように練習をする。
- 先生の代わりに、BくんとCさんを入れて、同じように練習をする。
このように、休み時間を利用して、隣の空き教室で複数のクラスメイトに音読を聞かせる練習を繰り返した。
練習に参加するクラスメイトは、事前の本人への聞き取りや、先生の見立てを元に選び、本人にも練習の事を伝えて協力してもらった。
取り組みは空き教室から教室内に移行し、そこで複数の生徒に呼ばれて「はい」と返事をする練習に切り替え。
最終的に小グループ班での音声での発表、クラスの前で発表という行動につなげていった。
この事例で大切なのは、いきなり教室全体での発話を求めるのではなく、負担の少ない「場」と「人」から始めて、少しずつ条件を広げていったことです。
学校で可能な配慮と工夫の例
学校で考えられる配慮や工夫としては、次のようなものがあります。
- 席の位置を調整する
- 周囲の児童の配置を工夫する
- 指名の仕方を変える
- 返答の形を選択式にする
- 空き教室や保健室を活用する
- 放課後の短い時間を使う
- 関わる先生を一人ずつ広げていく
また、発表や評価の場面では、
- 英語の音読や発表を別の形で評価する
- 音楽の発表を小人数から始める
- 大勢の前に出る前に別室でリハーサルをする
- 結果だけでなく参加や準備も評価に含める
といった考え方もあります。
すべての学校で同じようにできるわけではありませんが、こうした配慮や工夫が考えられることを知っておくことは大切です。
学校として避けたい関わり
支援のつもりでも、結果として「話さない」状態を固定化しやすい関わりがあります。
たとえば、
- 負担にさせないという配慮から当てる順番を飛ばして発表させない
- 本人に代わって友だちに代弁させる
- 本人にとって、とても簡単な方法を代替行為として評価する
- 本人に確認しないまま配慮を決める
といったものです。
これらは本人のコミュニケーション手段を奪う行為となり、「話そうという努力を回避してその場をやり過ごす」という負の行動を強化することになります。
その子が安心して過ごすことが出来ているという前提で、このような負の強化を避けるためには、発話が難しければ、書いて発表、録音で発表、分かっていたら手を上げさせるなど、その時に出来る手段で表現を促すという指導も必要になります。
評価の考え方
評価は、「話せたかどうか」だけで考えないことが大切です。
- その場にいられた
- 問いかけに反応できた
- 前より早く反応できた
- 口パクができた
- 小さい声が出た
といった変化も、支援の中では重要な前進です。
また、発表や音読などの評価では、結果だけでなく、
- その場に参加できたか
- 準備に取り組めたか
- 別の形で力を示せたか
といった視点も持っておくと、本人の努力を適切に捉えやすくなります。
より具体的進め方を考えたい方へ
このページでは、学校での支援の考え方、配慮、評価、組み立て方を中心に整理しました。
より具体的な設定の仕方や、家庭からどのように支援を進めるかについては、保護者向けの記事でも詳しく紹介しています。
学校での支援を考える際にも、保護者側の視点をあわせて知っておくことで、連携しやすくなります。
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