場面緘黙は、いつ専門的な相談につながるのか
研究が進んでも、診断の時期は早まっていなかった
ノルウェーの全国患者登録研究を読む
家庭では話しているのに、園や学校では話すことが難しい。その違いに気づいたとき、相談や支援には、どのようにつながっているのでしょうか。
2026年10月に公表されたノルウェーの全国患者登録研究では、研究者らの予想に反して、場面緘黙の診断年齢の低下は確認されませんでした。知識や支援方法が蓄積されることと、必要な人が早く相談につながること。その間にある課題を考えさせる結果です。
この記事では原著論文[1]の結果と著者らの解釈を紹介し、後半では、会の活動を通じて聞かれる声も踏まえて相談・支援について考えます。
全国の診療情報から、紹介と診断の時期を調べる
Oerbeckらは、2008〜2022年にノルウェーの児童・思春期精神保健サービス(CAMHS)で場面緘黙の診断が登録された、0〜18歳の1,591人を分析しました。
使用したのは、専門機関の診療情報を集約する全国患者登録(NPR)です。研究者が新たに一人ひとりを診察したのではなく、実際の医療で記録された情報を調べています。
専門機関からの報告が義務づけられているため、全国規模で紹介・診断の年齢や診断時期の経年変化を検討できます。対象者を集めにくい場面緘黙について、日常の診療を広く振り返れる点が、この仕組みの強みです。
[1]原著参照:Methods/Participants、Measures;Strengths and limitations(論文全文)
研究が進んでも、診断の時期は早まっていなかった
研究者らは、場面緘黙の研究や支援方法の蓄積に伴い、診断も早い年齢で行われるようになっているのではないかと予想していました。
しかし、2009〜2022年のデータでは、診断年齢の低下は確認されませんでした。女児では、小さいながら統計的に有意な上昇傾向があり、男児では有意な変化は見られませんでした。
[1]原著参照:Objectives;Results/Figure 2(論文全文)
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© The Author(s) 2026. Oerbeck, Manassis, Kristensen & Overgaard. 出典:原著Figure 2/CC BY-NC-ND 4.0。改変なし。
著者らは、場面緘黙の見逃しや専門機関への紹介の遅れを課題として挙げています。ただし、診断年齢の変化が何によって生じたのかは、この研究だけでは確定できません。
[1]原著参照:Discussion;Conclusions and clinical implications(論文全文)
知識や支援方法が増えることと、それを必要とする子どもが早く見つかり、相談につながることは、同じではありません。この研究の重要な論点は、その隔たりにあります。
就学期と思春期に見られた、診断人数の山
専門機関への初回紹介は平均9.1歳、場面緘黙の診断は平均10.1歳でした。一方、年齢別の診断人数には、6歳前後に大きな山があり、14〜15歳前後にも小さな山が見られました。
[1]原著参照:Results/Figure 1(論文全文)
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© The Author(s) 2026. Oerbeck, Manassis, Kristensen & Overgaard. 出典:原著Figure 1/CC BY-NC-ND 4.0。改変なし。
著者らは、就学によって発話を求められる機会が増えることや、思春期の社会的な期待の変化が関係する可能性を論じています。これは著者らの解釈であり、その原因を直接検証した結果ではありません。
[1]原著参照:Discussion(論文全文)
日本に引きつければ、就学や中学校・高校への進学など、それまでと異なる人間関係や参加の仕方を求められる節目が考えられます。環境の変化によって、以前からあった困難が認識され、相談や診断につながる場合もあるのではないでしょうか。
ただし、日本とノルウェーでは学校制度が異なります。この研究は個々の進学と受診の経緯を確認したものではなく、学校段階との関係は可能性として捉える必要があります。診断人数の山は、その年齢で初めて発症したことも意味しません。
「平均10.1歳」からは、分からないこと
この結果を「10歳まで相談も支援も受けていなかった」と読むことはできません。初回紹介はCAMHSへの紹介であり、家族が初めて誰かに相談した日ではありません。それ以前に園や学校、地域の機関で支援を受けていた可能性があります。
著者らも、より若い年齢で地域の支援が行われていたかどうかは判断できないと述べています。個々の発症時期、早く診断された人ほど改善したかどうか、専門機関につながっていない人の状況も、この研究からは分かりません。
また、登録された診断を研究者が個別に検証できないという限界があります。ノルウェーの専門医療のデータであり、日本の相談や診断の年齢を直接示すものではありません。
[1]原著参照:Methods/Measures;Discussion;Strengths and limitations(論文全文)
会に届く声から、相談につながる道筋を考える
ここからは、研究結果を踏まえた当会の考察です。
会の活動を通じて、進学時の相談も保護者から動く必要があることや、医療への相談にあたって自分たちで受診先を探している、といった声が聞かれます。
こうした声だけで、静岡県内の制度や取り組みの全体を評価することはできません。一方、相談先や支援の機会が設けられていても、そこにつながるための情報収集や調整を、家族が担っている状況がうかがえます。
家庭と園・学校での様子の違いを、誰が受け止めるのか。相談したあと、学校生活で必要な支援を誰と考えるのか。別の機関を紹介された場合、その後の状況を誰が確認するのか。制度の案内とともに、家族が実際にたどる道筋にも目を向けたいと考えます。
就学前の気づきと、その後も続く支援
5歳児健診は、就学前の子どもの状態や保護者の困りごとを確認し、その後の相談・支援を考える機会の一つです。こども家庭庁の関連資料でも、健診後のフォローアップ体制や、教育分野との情報共有が扱われています。[2・3]
今回の論文は5歳児健診を評価した研究ではありませんが、困難が目立つようになる前にどう気づき、支援につなげるかという問いを考える手がかりになります。
当会としては、就学前の気づきを支援につなげることに加え、その後の進学時にも困難を改めて確認し、引き継げることが大切だと考えます。
早期に困難に気づくことと、その後に継続して支援を受けられることは、どちらも大切です。
通級による指導も含め、学校生活の中でどのような支援を受けられるのか。本人や家族が選択肢を知り、学校や関係機関と相談できるよう、当会としても、支援のあり方や情報の届け方を考えていきたいと思います。
5歳児健診について知る
5歳児健診ポータル
研究班が制作した情報サイトです。保護者・自治体・医師などの立場別に、健診の目的や進め方、実施事例を紹介しています。
こども家庭庁「乳幼児健診に関する取組み」
関連通知や事例集、健診後のフォローアップ体制についての資料を確認できます。
受診の案内や実施方法は、お住まいの市町村の情報もご確認ください。
参考資料・原図の出典
[1]Oerbeck, B., Manassis, K., Kristensen, H., & Overgaard, K. R. (2026). Youth with selective mutism: a nationwide patient registry study. European Child & Adolescent Psychiatry. 2026年10月9日公開。
原著論文(全文無料)/DOI: 10.1007/s00787-026-03211-3
本文中の参照箇所は原著の節名・図番号です。
[2]こども家庭庁「乳幼児健診に関する取組み」。掲載資料「5歳児健康診査の実施に当たって求められる地域のフォローアップ体制等の整備について」(2024年3月29日)。
公的資料の掲載ページ
[3]5歳児健診ポータル「5歳児健診を始めるために」。
健診と支援体制についての解説
原著Figure 1・2は、© The Author(s) 2026、Creative Commons BY-NC-ND 4.0の条件に基づき、非営利の情報提供として改変せず転載しています。日本語の説明は当会が図の外に付記しました。
研究結果、著者らの解釈、当会の考察を区別して整理しています。会に届く声は、地域の制度や支援状況の全体を代表する調査結果ではありません。
