支援は、無理に話させることではありません
場面緘黙の支援では、本人が安心して持っている力を 出しやすくなるように、環境や関わり方を整えます。
そのうえで、今できている反応や行動を出発点にしながら、 本人の状態と意思に合わせて、コミュニケーションや参加の幅を 少しずつ広げていきます。
なぜ支援が必要なのでしょうか
場面緘黙は、「話せない状態」だけを見ると、 静かに過ごしているように見えることがあります。
しかし実際には、強い不安や緊張の中で日常を過ごしており、 その状態が続くことで、行動や人との関わりの幅が 少しずつ制限されていくことがあります。
- おとなしく見える
- 問題なく参加しているように見える
- 困っていないように見える
- 返事をしたくてもできない
- 助けを求められない
- 身体や表情が固まっている
困りごとが外から見えにくい
静かに過ごしているように見えても、 本人は強い負担を抱えている場合があります。
行動の幅が狭まりやすい
話すことだけでなく、動く、参加する、求めるといった 行動も難しくなることがあります。
状態が固定されることがある
「そのうち慣れる」と待つだけでは、 特定の場面で反応しない状態が続きやすくなることがあります。
回避の連鎖と負の強化
強い不安や緊張がある場面で、その場をやり過ごそうとすることは 自然な反応です。本人を責めるものではありません。
返事や行動を求められる
誰かが代わる・場面が進む
不安が一時的に下がる
次の場面でも回避が起こりやすい
苦痛や不安が取り除かれることで、 その直前の行動が繰り返されやすくなる仕組みを指します。
配慮によって負担を下げながら、次の機会につなげます
- 親切な人が代わりに答える
- 本人の様子を見て、質問や指名をスキップする
- 強い不安が予想される場面を、あらかじめ避ける
- 本人の安全や参加を守るために代弁する
これらは、本人の状態を理解したうえで必要となる配慮です。 ただし、毎回同じ対応だけが続くと、 本人が反応する機会を持ちにくくなり、 回避によってその場をやり過ごす状態が 続きやすくなることがあります。
- 発話以外の応答方法を用意する
- 本人が反応できるまで少し待つ
- 選択肢を示して答えやすくする
- 可能な方法でコミュニケーションする機会をつくる
- 本人の反応を見ながら、少しずつ方法を広げる
本人が今使える方法を尊重しながら、 反応や参加の機会を失わないようにします。 できることが安定してから、 次の小さな変化を考えます。
不安や緊張が強すぎるときは、 待たれることや応答を求められること自体が 大きな負担になる場合があります。
本人の表情や身体の状態を見ながら、 「少し待つ」「別の方法を示す」「今回は切り上げる」を 調整します。
二次的な困難につながることがあります
場面緘黙の状態が続くことで、 発話以外の部分にも影響が広がることがあります。
ただし、「話さない状態をそのままにすること」が、 生活や自己評価にどのような影響を与えているかは、 早い段階から確認しておく必要があります。
支援を始める前に確認したいこと
支援は、方法を知ったらすぐに始めればよいものではありません。 本人が取り組める状態にあるかを確認します。
心身に余力があるか
日常生活そのものに強い負担がある場合は、 まず安心して過ごせる環境づくりを優先します。
本人の意思や反応
「やってみてもよい」と感じられているか、 表情や行動も含めて確認します。
成功できる条件
できないことからではなく、 今できていることを出発点にします。
戻れる余地があるか
負担が強いときには中止したり、 一つ前の段階へ戻ったりできるようにします。
幼い子どもや、不安が強く言葉で意思を伝えにくい人の場合は、 表情、身体の反応、取り組みの前後の様子なども見ながら、 無理のない進め方を考えます。
何ができて、どこで難しくなるのかを確認します
支援を始める前に、「話せる・話せない」の二択ではなく、 条件の組み合わせを具体的に確認します。
相手
- 誰となら話しやすいか
- 誰の前では緊張が強いか
- 安心できる人は誰か
場所
- どこなら反応しやすいか
- 家庭と学校で何が違うか
- 人の多さで変化するか
活動
- どの活動なら参加できるか
- 自由会話と音読で違いがあるか
- 動きやすい活動は何か
表現の方法
- うなずき・指差し
- 筆談・カード・端末
- ささやき声・小さな声
- 誰とどの程度話しているか
- 来客や電話ではどうか
- 家の外へ条件を広げられそうか
- 教室・別室・校外で違いがあるか
- 授業や活動による違い
- 教師や友人による違い
本人の感じ方も確認します
なぜ「できることから」「段階的に」進めるのでしょうか
支援で示される原則は、単なる理想ではありません。 不安を強めず、成功体験を積み重ねるために必要な考え方です。
目標が高すぎると
失敗体験になりやすく、 次の取り組みへの不安が強まります。
段階を飛ばすと
強い緊張が生じ、 回避する行動が増えやすくなります。
本人の納得がないと
表面上は取り組めても、 継続することが難しくなります。
たとえば「学校で話す」ではなく、 「放課後の空き教室で、担任の二択質問に小さな声で答える」 といった形に具体化します。
支援は、本人、家庭、学校や園、必要に応じた支援者が 条件を整えながら進める共同作業です。
スモールステップと二つの支援技法
場面緘黙の支援では、目標までの道筋を細かな段階に分け、 今できていることや、安心できる条件を土台にしながら進めます。
スモールステップ
目標までの道筋を、成功可能な小さな段階に分けて 取り組みを設計する考え方です。
目標行動に近い反応を段階的に育てます。
すでにできる行動を保ちながら、 相手や場所などの条件を少しずつ変えます。
シェイピング法(行動形成)
まだ十分に現れていない行動について、 目標行動に近い反応を強化しながら、 強化する基準を少しずつ変えていく技法です。
- 目標行動に近い反応を見つける
- できた反応を土台にして次の基準へ進む
- 一度に大きく行動を変えようとしない
- 実際の段階は本人の状態に合わせる
刺激フェーディング
すでにできている行動を保ちながら、 相手、場所、距離、人数などの刺激条件を 少しずつずらしていく技法です。
- できている行動は保ったまま進める
- 相手や場所を一度に大きく変えない
- 変える条件は原則として一つずつにする
- 安定してから次の条件へずらす
スモール・スモール・スモール・ステップ
これは独立した技法名というより、 一般的なスモールステップよりも、 さらに細かく段階を分けて考える必要があるという指針です。
場面緘黙では、周囲から見るとわずかな違いでも、 本人にとっては大きな条件変化になることがあります。
ここまでの理解が、家庭と学校での支援の土台になります
このページで整理した内容は、 具体的な方法を選ぶための判断材料になります。
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支援について考える中で、不安や疑問が出てきた方へ
【静岡 場面かんもくの会】では、 保護者を中心とした情報共有や交流を行っています。 医療機関や個別支援機関ではありませんが、 同じような経験を持つ方とつながることができます。
参考文献
- バーグマン, R. L.(2018) 『場面緘黙の子どもの治療マニュアル:統合的行動アプローチ』 園山繁樹監訳、二瓶社
- コトルバ, A.(2019) 『場面緘黙の子どものアセスメントと支援: 心理師・教師・保護者のためのガイドブック』 丹明彦監訳、青柳宏亮・宮本奈緒子・小暮詩織訳、遠見書房
- マクホルム, A. E.・カニンガム, C. E.・バニエー, M. K.(2007) 『場面緘黙児への支援: 学校、家庭、公共の場での活発なコミュニケーションをめざして』 河井芳文・河井英子訳、田研出版
- かんもくネット著・角田圭子編(2014) 『場面緘黙Q&A: おしゃべりできない子たちへの理解と支援』 学苑社
- 園山繁樹(2012) 『場面緘黙支援入門: 園や学校でおしゃべりできない子を支える』 学苑社
- 金原洋治・高木潤也(2013) 『子どもの場面緘黙サポートガイド: アセスメントと学校・家庭での支援』 合同出版
