場面緘黙の支援を理解する|見えにくい困りごと、回避の連鎖、支援の進め方

なぜ支援が必要なのか

場面緘黙は、「話せない状態そのもの」だけを見ると、静かに過ごしているように見えることがあります。

しかし実際には、本人は強い不安や緊張の中で日常を過ごしており、その状態が続くことで、行動や関係性の幅が少しずつ制限されていきます。

また、「そのうち慣れるのではないか」と様子を見るだけで時間が経過すると、特定の場面では話さない、反応しないという行動が固定されやすくなります。

支援が必要なのは、無理に話させるためではありません。
本人が持っている力を出しやすくするために、環境や関わり方を調整する必要があるためです。

このページでは、具体的な支援の前提となる考え方を整理します。

見えにくい困りごとは、話すことだけではない

場面緘黙の困りごとは、「話すこと」に限りません。

  • 返事ができない
  • 質問に答えられない
  • 助けを求められない
  • トイレに行きたいことを伝えられない
  • けがや体調不良を言えない
  • グループ活動に入れない
  • 音楽や体育、給食の場面で動きにくい

さらに、

  • 表情が固まる
  • 身体が動かなくなる
  • 声だけでなく、書く・描くといった表現も抑制される

といった形で、自己表現全体に影響が及ぶこともあります。

周囲からは「静か」「おとなしい」と見えることも多く、困りごとが見えにくいまま進んでしまうことが少なくありません。

この「見えにくさ」を前提にしないと、支援は始まりません。

回避の連鎖と負の強化

強い不安や緊張がある場面では、その場をやり過ごすことは自然な反応です。

  • 話さずに済んだ
  • 反応しなくても進んだ
  • 誰かが代わりに答えてくれた

これらはその瞬間の負担を下げますが、繰り返されることで、「この場面では話さない」という行動が定着していきます。

さらに、

  • 先生が答えられない配慮から当てる順番を飛ばす
  • 友だちが本人に代わって答える
  • 保護者が本人に代わってやり取りする

といった関わりは、善意から来るものであったとしても、意図せずその行動を維持しやすくします。

「つらそうだから関わらない」「様子を見る」という対応も、一見中立に見えますが、結果としてその状態を続けやすくする要因になることがあります。

支援では、この回避を責めるのではなく、回避に頼らなくても成り立つ関わり方を少しずつ増やしていくことが重要になります。

二次的な困難につながる前に

場面緘黙の状態が続くことで、発話以外の部分にも影響が広がることがあります。

  • 友人関係が限定される
  • 関わりの幅が広がりにくい
  • 自分に対する評価が下がる
  • 不安が慢性的になる

その結果として、

  • 学校に行きづらくなる
  • 強い不安や落ち込みにつながる

といった二次的な困難につながる可能性もあります。

すべてがそうなるわけではありませんが、
「話さない状態をそのままにすることの影響」は、早い段階で考えておく必要があります。

支援の前提条件

支援を始める前に、いくつか確認しておきたい前提があります。

まず、本人が心身ともに取り組める状態にあること。
日常生活そのものに強い負担がかかっている場合は、まず安心して過ごせる環境づくりを優先することがあります。

また、本人が「やってみてもいい」「少し変わりたい」と思えていることも大切です。
支援は、本人との共同作業であり、意向を無視して進めても続きにくくなります。

さらに、取り組みはできることから始めることが基本です。
成功できる条件から始め、段階を飛ばさず進めることが、支援の土台になります。

支援の前に必要な見立て(アセスメントのポイント)

支援を進める前に、「何ができて、何が難しいのか」を具体的に見ることが必要です。

  • 誰となら話しやすいか
  • どこなら反応しやすいか
  • どの活動なら参加できるか
  • どの手段なら表現できるか

また、

  • 家庭ではどうか
  • 学校ではどうか
  • どこで差が出ているか

も重要な視点です。

さらに、

  • 誰の関わりが負担になっているか
  • 誰の前なら安心できるか
  • 本人は困っていると感じているか
  • 変わりたいと思っているか
  • 今の状態でどこまでなら挑戦できそうか

といった点も含めて見ていきます。

この見立てがないまま支援を進めると、うまくいかないことが多くなります。

支援の原則はなぜ必要か

支援では、よく「できることから始める」「段階を踏む」といった原則が示されます。

これらは単なる理想ではなく、理由があります。

  • 高すぎる目標は失敗体験になりやすい
  • 段階を飛ばすと不安が強まり、回避が増える
  • 本人の納得がないと継続しにくい

また、支援は本人だけの努力ではなく、周囲との共同作業です。

目標は、

  • どの場所で
  • 誰と
  • どのような行動を

と分解して考えることで、初めて現実的になります。

支援の組み立てに使われる考え方

場面緘黙の支援では、いくつかの基本的な考え方が使われます。

シェイピング
・今できている反応を出発点にして、少しずつ行動の幅を広げていく

刺激フェーディング
・話せる人や場所を土台にして、相手や環境を段階的に広げていく


これらは特別な技術ではなく、支援を組み立てるときの考え方です。

重要なのは、「一度に変える」のではなく、「条件を少しずつ変える」という点です。

よく、「スモールステップ」と表現しますが、場面緘黙の場合は、

「スモール・スモール・スモール・ステップ」というくらいに細かくゆっくりと段階を進むのが推奨されています。

具体的な実践に進む前に

ここまでの内容は、

  • どこから始めるか
  • どの順で進めるか
  • どこで止まるべきか

を判断するための土台になります。

この土台を踏まえたうえで、保護者向け、学校向けそれぞれの具体的な取り組みに進むことで、支援は現実的な形になります。

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参考文献
・バーグマン, R. L. (2018). 『場面緘黙の子どもの治療マニュアル:統合的行動アプローチ』 (園山繁樹 監訳). 二瓶社.
・コトルバ, A. (2019). 『場面緘黙の子どものアセスメントと支援:心理師・教師・保護者のためのガイドブック』 (丹明彦 監訳, 青柳宏亮・宮本奈緒子・小暮詩織 訳). 遠見書房.
・マクホルム, A. E.・カニンガム, C. E.・バニエー, M. K. (2007). 『場面緘黙児への支援:学校、家庭、公共の場での活発なコミュニケーションをめざして』 (河井芳文・河井英子 訳). 田研出版.
・かんもくネット (著)・角田圭子 (編) (2014). 『場面緘黙Q&A:おしゃべりできない子たちへの理解と支援』. 学苑社.
・園山繁樹 (2012). 『場面緘黙支援入門:園や学校でおしゃべりできない子を支える』. 学苑社.
・金原洋治・高木潤也 (2013). 『子どもの場面緘黙サポートガイド:アセスメントと学校・家庭での支援』. 合同出版.