学校生活の困りごとを整理し、環境と取り組みを整える
このページでは、場面緘黙のある子どもが学校で安心して過ごし、 必要な活動に参加できるようにするための支援を紹介します。
支援では、発話だけを見るのではなく、 学校生活のどの場面で困っているか、 どのような条件なら力を発揮しやすいかを整理します。
安全や参加を守るための配慮を行いながら、 本人の希望と心身の余力を確認し、 必要に応じて段階的な取り組みを組み立てます。
学校と家庭が、見えている情報を持ち寄ります
学校では、返事、発表、質問、友だちとのやり取り、 助けを求めることなどに難しさが表れる場合があります。
一方、家庭では学校での緊張は直接見えにくく、 学校では家庭で話せている様子や帰宅後の状態が分かりません。 それぞれが見えている情報を共有することが、支援の出発点になります。
- 困りごとが表れる場面
- 反応できる相手や活動
- 表情や身体の緊張
- 参加できている方法
- 教室や行事での変化
- 家庭で話せる条件
- 本人が安心しやすい関わり
- 本人の希望や困りごと
- 登校前後や帰宅後の様子
- これまで有効だった対応
- 学校での担当者
- 安全のための伝達方法
- 当面必要な配慮
- 目標と取り組みの内容
- 振り返りの時期と方法
担任、養護教諭、特別支援教育担当者、支援員、管理職など、 必要な範囲で情報を共有します。 年度や担任が変わるときの引き継ぎ方法も決めておきます。
「話さない」だけでなく、場面ごとの困りごとを見ます
場面緘黙の状態は、相手、場所、活動、 注目される程度などによって変わります。
発話の有無だけでなく、 学校生活のどこで動きにくさや参加の難しさが生じているかを整理します。
登校・朝の時間
- 教室へ入りにくい
- 挨拶や健康観察に反応しにくい
- 準備の手順で止まりやすい
授業
- 返事や発表が難しい
- 質問できない
- 指名されると固まる
休み時間
- 遊びに入りにくい
- 友だちへ希望を伝えにくい
- 一人で過ごしやすい
生活上の必要
- トイレを伝えられない
- 体調不良を伝えられない
- 困ったときに助けを求められない
活動・教科
- 音楽や英語で声が出しにくい
- 体育や給食で動きが止まる
- グループ活動へ入りにくい
行事・変化
- 予定変更で緊張が高まる
- 大勢の前で動きにくい
- 普段と違う先生に反応しにくい
発話以外の反応も確認します
学校では落ち着いて見えても、 帰宅後の強い疲れや癇癪が、 通学や教室での負担を示していることがあります。
発話できないときにも、必要なことを伝えられるようにします
トイレ、体調不良、けが、いじめや困りごとなど、 安全に関わることを伝えられる方法は、早い段階で確認しておきます。
トイレ、体調、けが、困りごと、助けてほしいことなど。
担任、養護教諭、支援担当者など、具体的に決めます。
うなずき、指差し、筆談、端末、決めた合図など。
緊張が高い場面でも本人が使える方法かを確かめます。
カード、筆談、端末などは有効な場合がありますが、 年齢や場面によっては使用すること自体が負担になります。 本人と相談し、実際に使える方法を選びます。
- 担当者が不在のときの伝達先
- 本人が合図を出した後の対応
- 周囲の児童生徒に知られすぎない方法
- 緊急時に学校側がどのように判断するか
- 本人が方法を変更したくなった場合の相談先
取り組みの前に、学校生活の負担を下げます
強い緊張によって表情や身体の動きまで制限されている場合は、 発話の取り組みよりも、安心して過ごせる環境づくりを優先します。
- 席の位置を調整する
- 安心しやすい友だちを近くにする
- 急に注目を集めない
- 反応を急がせず待つ
- 短く分かりやすく伝える
- 答え方を事前に示す
- 話せたことを大きく話題にしない
- 予定した対応を守る
- 保健室や空き教室を利用できる
- 落ち着ける場所を決めておく
- 別室と教室を行き来できる
- 放課後の静かな時間を使う
- 指名や発表を事前に知らせる
- 行事や予定変更を予告する
- 活動の終わりを明確にする
- 中止できる方法を決める
発話できないことを、活動から外す理由にしません
発話が難しい場面でも、 本人が理解したことや考えたことを示し、 活動に参加できる方法を考えます。
選択式、うなずき、指差し、記述、端末入力などで答える。
一対一、小人数、別室、録音、事前収録、共同発表などから選ぶ。
書記、資料提示、実演、指差しなど、参加できる役割を設定する。
小人数から始める、周囲と一緒に声を出す、録音を使うなど調整する。
発話以外でできる部分を担当し、必要に応じて段階を組む。
- 安全に関わる伝達方法
- 急な発表や指名の調整
- 必要な代替方法
- 安心できる場所の確保
- 本人の希望が変わっていないか
- 参加する機会が狭まっていないか
- 現在できることが増えていないか
- 新しい段階を試せる余力があるか
人・場所・活動を分け、一度に変える条件を少なくします
「学校で話せるようになる」では目標が広すぎます。 誰と、どこで、何をするかを具体的にします。
相手
- 担任
- 養護教諭
- 支援担当者
- 友だち一人
- 小グループ
- クラス全体
場所
- 保健室
- 空き教室
- 放課後の教室
- 廊下
- 通常の教室
- 体育館や特別教室
活動・行動
- うなずく
- 選択肢を示す
- 短い返事をする
- 音読する
- 質問する
- 発表する
難しさを左右する条件
- 自分から始めるか
- 答えが決まっているか
- 注目されているか
- 一対一か集団か
- 予告があるか
- 返答後に会話が続くか
担任から決まった質問をされて「はい」と答える
自分から担任へ近づき、注意を引いて質問する
取り組みの段階を小さくします
うなずき、指差し、筆談、録音などは、 本人の意思を伝え、活動へ参加するための方法です。 本人の目標や状態に応じて、発話の取り組みとは分けて考えます。
- 一回の時間を短くする
- 実施する曜日や時間を決める
- 関わる先生を広げすぎない
- 記録項目を増やしすぎない
- 学校の日常の中で続けられる内容にする
安心できる相手と場所から、小グループへ広げた例
以下は、静岡 場面かんもくの会の会員から共有された学校での実践例を、 支援の流れが分かるように整理したものです。
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STEP 1
空き教室で、担任と二人で音読する
本人がすでに声を出せる相手と場所を土台にします。
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STEP 2
本人が安心しやすいクラスメイト一人を加える
最初は名前を呼ばれて「はい」と答えるなど、 短く予測しやすい行動から始めます。
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STEP 3
同じ相手の前で音読する
人数や場所は変えず、行動だけを少し広げます。
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STEP 4
クラスメイトを一人ずつ交代する
本人の希望と先生の見立てをもとに、 安心しやすい相手から少しずつ広げます。
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STEP 5
担任が離れ、クラスメイト二人と取り組む
活動内容は変えず、関わる相手の条件だけを変えます。
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STEP 6
通常の教室へ場所を移す
教室内で複数の児童生徒に呼ばれ、 短い返事をする取り組みへ移ります。
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STEP 7
小グループでの音読や発表へ広げる
前の段階が安定してから、 活動の内容や人数を少しずつ広げます。
負担を増やさず、参加する機会も失わないようにします
支援では、無理に話させないことが大切です。 同時に、本人に確認しないまま参加する機会をなくしたり、 必要な意思表示をすべて周囲が代わったりしないようにします。
指名する場面と答え方を事前に確認し、 本人が選べるようにします。
発話以外を含め、現在参加できる方法を本人と決めます。
待つ時間や本人が使える方法を確認し、 必要な場合にだけ支援します。
同じ条件で繰り返し、 本人と確認してから次の段階へ進みます。
本人が受け取りやすい方法で、 具体的な変化を静かに伝えます。
安全や参加に必要な配慮は続け、 変更する場合は本人と段階を決めます。
同じ対応を続けること自体が問題なのではありません。 本人の安全と参加を守れているか、 本人が望む次の一歩を妨げていないかを振り返ります。
発話の有無だけでなく、参加と負担の変化を見ます
- 反応までの時間が短くなった
- 表情や身体の緊張が下がった
- その場に参加できた
- 自分で伝達方法を選べた
- 助けを求められた
- 短い返事や小さな声が出た
- 難しいと伝えられた
- 発話だけで理解度を判断しない
- 記述や実演など別の方法も確認する
- 準備や参加の過程を含めて見る
- 評価方法を事前に本人と共有する
- 場面緘黙による困難と学習内容を分けて考える
振り返り後の判断
できたものの、まだ緊張やためらいが強い場合。
同じ段階が安定し、本人も次を希望する場合。
負担が強く、取り組みが大きすぎた場合。
本人の希望や学校生活の状況が変わった場合。
学校生活だけで強く消耗している場合。
本人の努力不足と考えず、 相手、場所、活動、タイミングなど、 どの条件を調整する必要があるかを確認します。
情報共有・目標設定・記録に支援ツールを使う
学校での状態整理、家庭との情報共有、 目標設定、行動分解、実践記録に使える資料をまとめています。
本人の状態や希望を確認し、 学校と家庭で相談しながら、必要なものを選んで使用します。
参考文献
- バーグマン, R. L.(2018). 『場面緘黙の子どもの治療マニュアル:統合的行動アプローチ』 園山繁樹監訳、二瓶社.
- フリードバーグ, R. D.・フリードバーグ, B. A.・フリードバーグ, R. J.(2005). 『子どものための認知療法練習帳』 長江信和・元村直靖・大野裕訳、創元社.
- カーニー, C. A.(2015). 『先生とできる場面緘黙の子どもの支援:行動理論に基づいたアプローチ』 大石幸二監訳、松岡勝彦・須藤邦彦訳、学苑社.
- コトルバ, A.(2019). 『場面緘黙の子どものアセスメントと支援: 心理師・教師・保護者のためのガイドブック』 丹明彦監訳、青柳宏亮・宮本奈緒子・小暮詩織訳、遠見書房.
- マクホルム, A. E.・カニンガム, C. E.・バニエー, M. K.(2007). 『場面緘黙児への支援: 学校、家庭、公共の場での活発なコミュニケーションをめざして』 河井芳文・河井英子訳、田研出版.
- セージ, R.・スルーキン, A.(2003). 『場面緘黙へのアプローチ:家庭と学校での取り組み』 杉山信作監訳、かんもくネット訳、田研出版.
- スミス, B. R.・スルーキン, A.(2017). 『場面緘黙支援の最前線:家族と支援者の連携をめざして』 かんもくネット訳、学苑社.
- 園山繁樹(2012). 『場面緘黙支援入門:園や学校でおしゃべりできない子を支える』 学苑社.
- 高木潤野(2017). 『学校における場面緘黙への対応: 合理的配慮を踏まえた教育支援』 学苑社.
- 金原洋治・高木潤野(2013). 『子どもの場面緘黙サポートガイド: アセスメントと学校・家庭での支援』 合同出版.
