家庭での支援を進めるために

保護者の方へ

家庭を、安心して力を出せる土台にする

大人と子どもが穏やかに寄り添うクレイ調のイラスト

家庭は、本人が緊張を下げ、自分らしく過ごしやすい大切な場所です。

家庭でのすべての会話を練習に変えたり、 話せたかどうかを毎回確認したりする必要はありません。 まずは、安心して話し、遊び、休むことのできる時間を守ります。

そのうえで、本人の心身に余力があり、 本人も「少しやってみてもよい」と感じられるときには、 家庭でできていることを土台にして、 コミュニケーションや参加の幅を少しずつ広げることができます。

家庭でできることは多くありますが、保護者だけですべてを背負う必要はありません

本人の状態を見ながら、学校や園、必要に応じた支援者と 情報を共有し、一緒に進め方を考えます。

このページの位置づけ

このページでは、支援の基本的な考え方を、 家庭での観察や日常の関わりに当てはめて整理します。 回避の連鎖、アセスメント、スモールステップなどの 支援全体の理論は、前のページで詳しく扱っています。

場面緘黙の支援について確認する
01 家庭の役割

家庭は、安心する場所であると同時に、本人を理解する場所です

場面緘黙の支援は、特別な支援場面だけで行うものではありません。 日常生活の中で本人の状態を理解し、 負担を調整することも、支援の大切な一部です。

一方で、家庭を常に「話すための練習場所」にすると、 本人が気持ちを緩められる時間が少なくなってしまいます。 安心できる生活を守ることと、必要な取り組みを行うことを 分けて考える必要があります。

守る

安心して過ごせる時間

話す練習だけを優先せず、 家庭で遊び、休み、気持ちを緩められる時間を大切にします。

見る

本人の状態や変化

誰と、どこで、どのようなときに反応しやすいかを、 日常の様子から具体的に確認します。

伝える

家庭で見えている姿

家庭でできていることや本人の希望を、 学校や園、支援に関わる人へ伝えます。

支える

小さな取り組み

本人に余力と納得があるときに、 今できていることから無理のない一歩を考えます。

家庭の日常 安心して過ごす

会話、遊び、食事、休息などを、 結果を求めずに過ごせる時間です。

必要に応じた取り組み 本人と相談して行う

いつ、何に取り組むかを分け、 終わったら普段の生活へ戻ります。

家庭を安心できる場所として守ることは、何もしないことではありません

安心して過ごせる土台があるからこそ、 本人が新しいことに取り組む余力を持ちやすくなります。

02 現在の状態を見る

「話せる・話せない」だけでなく、条件の違いを見ていきます

支援を始める前に、本人が現在どのような条件で 反応しやすく、どのような条件で難しくなるのかを確認します。

家庭では自然に話せていても、 来客、電話、外出、親族との集まりなど、 条件が少し変わることで反応しにくくなる場合があります。

相手

  • 家族の中でも違いがあるか
  • 祖父母や親族とはどうか
  • 友だちや来客の前ではどうか
  • 安心しやすい相手は誰か

場所

  • 自宅の中ではどうか
  • 自宅の玄関や庭ではどうか
  • 祖父母宅や友人宅ではどうか
  • 外出先ではどうか

活動

  • 自由な会話と質問への返答の違い
  • 遊びながらなら反応できるか
  • 読む・歌う・挨拶する場合はどうか
  • 得意な活動では変化があるか

伝え方

  • うなずきや首振り
  • 指差しやジェスチャー
  • 筆談や端末での入力
  • ささやき声や小さな声
家庭で見えている姿
  • 自然に話している
  • よく動き、表情が豊か
  • 自分から希望を伝えられる
学校や家庭外で見えている姿
  • 声や反応が出にくい
  • 身体や表情が固まりやすい
  • 助けや希望を伝えにくい

家庭と学校で姿が大きく異なっても、 どちらかの見方が間違っているわけではありません。 条件によって状態が変わることを共有することが、 支援を考える出発点になります。

緊張を強める条件も確認します

急に質問される
多くの人に注目される
返事を長く待たれる
話せるか試される
失敗できない雰囲気がある
疲労や体調不良がある
相手や予定が急に変わる
周囲が話題にする
難しさは、本人の能力だけで決まるものではありません

相手、場所、活動、人数、注目のされ方、体調などの 組み合わせによって、反応しやすさは変わります。

03 日常の関わり

本人が使える方法と、反応する余地を残します

日常の関わりでは、発話だけを唯一の返答方法にせず、 本人が現在使える方法で意思を伝えられるようにします。

同時に、周囲がすべてを先に決めたり、 すぐに代わって答えたりするのではなく、 本人が反応できそうな余地を残します。

01

安心できる条件を整える

静かな場所、安心できる相手、好きな活動など、 反応しやすい条件を見つけます。

02

発話以外の方法も認める

うなずき、指差し、筆談、選択カードなども、 大切なコミュニケーションとして扱います。

03

短く待つ時間をつくる

すぐに答えを代わらず、本人が反応できそうな時間を 落ち着いて残します。

04

難しければ方法を変える

選択肢を示す、指差しに変える、今回は切り上げるなど、 状態に応じて調整します。

05

結果だけで評価しない

その場に参加したこと、試そうとしたこと、 前より反応が早かったことも確認します。

06

話せたことを大きく扱わない

周囲が驚いたり注目したりせず、 自然にやり取りを続けます。

「待つ」ときに大切なこと 反応を迫らず、逃げられない状態にしない
1 少し待つ

反応できそうな様子がある場合

2 方法を変える

選択肢、指差し、筆談などへ

3 今回は切り上げる

不安や緊張が強い場合

見つめたまま長く待ったり、 答えるまで場面を終わらせなかったりすると、 待つこと自体が強い負担になる場合があります。 表情や身体の状態を見ながら判断します。

できたことは、具体的に伝えます
「自分で選べたね」 「前より早く伝えられたね」 「最後までその場にいられたね」 「難しいと伝えられたね」

大げさに褒めたり、他の人の前で成果を話題にしたりするよりも、 本人が気づける程度に、落ち着いて具体的に返します。

04 目標と成功体験

大きな目標を、今できそうな行動へ置き換えます

「学校で話せるようになる」「誰とでも会話できるようになる」 といった大きな目標だけでは、 最初の一歩を決めることが難しくなります。

目標は、本人が現在できていることから 少しだけ進める、具体的な行動にします。

どこで 場所
誰と 相手
何をする 行動
例1

自宅で、祖母の二択の質問に、 うなずきで答える

例2

自宅で、安心できる友だちに、 ゲームで使う言葉を一語伝える

例3

空いている店で、保護者と一緒に、 商品を指差して店員へ示す

成功しやすい範囲から始めます

1

今できていることを出発点にする

できない行動をそのまま求めず、 すでに可能な反応や条件を使います。

2

一度に変える条件を少なくする

相手、場所、行動をすべて難しくせず、 原則として一つずつ変えます。

3

同じ成功を繰り返す

一度できても急いで先へ進まず、 同じ条件で安定するまで繰り返します。

4

難しければ一段戻る

うまくいかないときは本人の失敗ではなく、 条件がまだ難しかったと考えます。

小さな変化も確認します 「話せたかどうか」だけで判断しない
反応するまでの時間が短くなった
ためらいが少なくなった
表情や身体の緊張が下がった
自分から伝える方法を選べた
その場に参加できる時間が増えた
難しいと意思表示できた
このページでは考え方を扱い、具体的な段階表の作成は次のページで説明します

実際の目標設定、行動の分解、実施、記録、振り返りは、 「家庭での支援の実践」で順を追って整理します。

05 家庭から外へ広げる

家庭でできていることを土台に、条件を少しずつ変えます

家庭でできているやり取りや反応は、 家庭の外へ広げるときの大切な出発点になります。

ただし、家庭でできることをそのまま外で求めるのではなく、 相手、場所、人数、活動などの条件を調整します。 本人が取り組むことに納得していること、 難しいときに中止できることも大切です。

友だち

安心して関われる相手とのつながり

この場面が持つ意味

継続して関われる友だちとの関係は、 家庭と集団生活をつなぐ大切な経験になります。

考えられる始め方
  • 先生に安心しやすそうな相手を相談する
  • 最初は一対一で関わる
  • 自宅など安心しやすい場所を使う
  • 保護者が遊びの流れを支える
  • ゲームや工作など共通の活動を用意する
注意したいこと

会話を成立させることだけを目的にせず、 一緒に過ごせることや、同じ活動を楽しめることから始めます。

親族

家庭に近い相手との関係を生かす

この場面が持つ意味

祖父母、叔父叔母、いとこなどは、 親しさがありながら家庭とは少し条件の異なる相手です。

考えられる始め方
  • 比較的安心しやすい親族から始める
  • 人数や滞在時間を少なくする
  • 好きな遊びや活動を一緒に行う
  • 話すことを周囲が話題にしないよう伝える
  • 家庭と親族宅のどちらがよいかを考える
注意したいこと

親しい関係だから話せるはずだと考えず、 相手や場所の違いによる負担を確認します。

課外活動

好きなことを通じた新しい関係

この場面が持つ意味

興味のある活動や得意なことが、 人や場所との関わりを広げるきっかけになる場合があります。

考えられる始め方
  • 見学や体験参加から始める
  • 短い時間だけ参加する
  • 少人数の活動を選ぶ
  • 事前に指導者へ状態を伝える
  • 発話を参加条件にしないよう相談する
注意したいこと

新しい場所、人、集団が同時に加わるため、 本人の負担が大きい場合は無理に利用しません。

公共の場

日常生活で必要なやり取り

この場面が持つ意味

店舗や施設でのやり取りは、 本人の生活や将来の自立につながる場合があります。

考えられる始め方
  • 家庭で言い方や流れを確認する
  • 人の少ない時間や慣れた店を選ぶ
  • 指差しや商品を見せる方法から始める
  • 言う内容を事前に決めておく
  • 必要に応じて保護者と一緒に伝える
注意したいこと

外出のたびに練習を求めるのではなく、 本人と相談して取り組む場面を限定します。

家庭に近い条件
安心できる相手
慣れた活動
少し違う場所
新しい相手や場面

一度にすべての条件を変えず、 本人の反応を見ながら少しずつ広げます。

06 助けることと機会

本人を守る配慮と、反応する機会の両方を考えます

保護者が代わりに答えることや、 必要なことを先回りして行うことは、 本人の負担を下げ、安全や参加を守るために必要な場合があります。

そのため、代弁や先回りを一律に 「してはいけないこと」と考える必要はありません。 大切なのは、本人の状態に応じて使い分けることです。

その場で必要になることのある配慮
  • 安全や体調に関わることを代弁する
  • 不安が強い質問や指名をスキップする
  • 本人が伝えられない希望を補足する
  • 予定や手順を先に説明する
  • 難しい場面から離れられるようにする
本人の状態を確認 今はどの程度なら反応できそうか

不安、表情、身体の緊張、体調、 本人の意思を見ながら判断します。

可能なときに残したい機会
  • 発話以外の応答方法を示す
  • 選択肢から選べるようにする
  • 本人が反応する時間を少し残す
  • 一部だけ本人が伝える形にする
  • できる方法を少しずつ増やす
店員から「袋は必要ですか」と聞かれたとき
負担が強い

保護者が代わりに答える

少し反応できそう

「いる・いらない」を指で示せるようにする

慣れてきた

本人がうなずく、カードを示す、小さな声で答える

配慮を急に外すことが支援ではありません

これまで保護者が代わっていた場面で、 予告なく本人だけに答えさせると、 不安や緊張を強める可能性があります。 本人と相談し、使用できる方法を準備してから進めます。

助けるか、待つかの二択ではなく、その間にある方法を探します

一緒に答える、一部だけ本人が示す、 発話以外の方法を使うなど、 現在可能な形へ調整します。

07 声が出始めたとき

小さな声やささやき声も、まずは大切な変化として受け止めます

長く声を出すことが難しかった場面で発話が始まるとき、 小さな声、ささやき声、かすれた声、 とぎれとぎれの発話などが見られることがあります。

その場で声量や話し方を直そうとせず、 本人が声を使えたことや、やり取りに参加できたことを 落ち着いて受け止めます。

まず大切にすること
  • 驚いた反応をしない
  • 周囲へ大きく知らせない
  • 自然に会話を続ける
  • 本人が嫌がる振り返りをしない
  • 前進として穏やかに受け止める
その場で避けたいこと
  • 「もっと大きな声で」と求める
  • もう一度言わせる
  • 話せた理由を問い続ける
  • 他の人の前で成果を話題にする
  • すぐに難しい場面でも試す
次に考えること
  • 同じ条件で安定しているか
  • 本人の負担は強くないか
  • 本人は次へ進みたいか
  • 変える条件を一つにできるか
  • 必要に応じて支援者へ相談する
「小さな声では不十分」と考える必要はありません

現在の発話を否定せず、まず安定して使えるようにします。 本人の希望や生活上の必要性に応じて、 次の小さな段階を検討します。

声の状態には個人差があり、 家庭だけで次の段階を判断することが難しい場合もあります。 無理に先へ進めず、必要に応じて学校や支援に関わる人と相談します。

08 家庭だけで抱え込まない

家庭で分かったことを共有し、役割を分けて進めます

家庭でできることは多くありますが、 すべての取り組みを家庭だけで行う必要はありません。

学校や園で困りごとが生じている場合は、 その場の環境調整や取り組みについて、 学校側と協力して考えることが必要です。

家庭から伝えること
  • 家庭での発話や反応の様子
  • 安心しやすい人・場所・活動
  • 本人が使える伝達方法
  • 緊張を強めやすい関わり
  • 本人の希望や不安
  • 家庭で行っている取り組み
学校や園と確認すること
  • どの場面で困っているか
  • 誰の前で反応しやすいか
  • 授業や活動による違い
  • 発表や評価の方法
  • 助けを求める方法
  • 取り組みに使える時間や場所
一緒に決めたいこと
  • 必要な配慮
  • 現在の小さな目標
  • 本人への説明方法
  • 家庭と学校の役割
  • 記録と共有の方法
  • 中止・変更する基準
家庭 安心できる条件や本人の希望を伝える
学校・園 集団場面での様子や環境を伝える
本人 可能な方法で意思や負担を確認する

保護者自身の負担にも目を向けます

判断を一人で背負わない

進めるか休むか、どこまで求めるかを、 保護者だけで決め続ける必要はありません。

うまくいかない責任を負わない

取り組みが難しかった場合は、 本人や保護者の努力不足ではなく、条件を見直します。

相談できるつながりを持つ

学校、相談機関、医療機関、親の会など、 必要に応じて話せる相手を持ちます。

家庭と学校で見えている姿が違うことも、重要な情報です

どちらかに合わせて理解するのではなく、 条件によってどのように状態が変わるのかを一緒に考えます。

09 具体的な実践へ

目標設定、実施、記録の方法を具体的に考えます

このページでは、家庭で支援を考えるときの 見方や関わり方を整理しました。

次のページでは、現在地の整理、最終目標、 人・場所・行動の分解、最初の一歩、 成功の振り返りなど、実際の取り組みを組み立てる方法を扱います。

NEXT 家庭での支援の実践 目標設定、行動の分解、取り組みの実施、 成功の捉え方、記録と調整を具体的に整理します。

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静岡県内の親の会

家庭だけで考え続けることに負担を感じている方へ

【静岡 場面かんもくの会】では、 保護者を中心とした交流や情報共有を行っています。 医療機関や個別の支援機関ではありませんが、 同じような経験を持つ方とつながることができます。

参考文献
  • バーグマン, R. L. 『場面緘黙の子どもの治療マニュアル: 統合的行動アプローチ』 園山繁樹監訳、二瓶社
  • コトルバ, A. 『場面緘黙の子どものアセスメントと支援: 心理師・教師・保護者のためのガイドブック』 丹明彦監訳、青柳宏亮・宮本奈緒子・小暮詩織訳、遠見書房
  • マクホルム, A. E.・カニンガム, C. E.・バニエー, M. K. 『場面緘黙児への支援: 学校、家庭、公共の場での活発なコミュニケーションをめざして』 河井芳文・河井英子訳、田研出版
  • セージ, R.・スルーキン, A. 『場面緘黙へのアプローチ: 家庭と学校での取り組み』 杉山信作監訳、かんもくネット訳、田研出版
  • スミス, B. R.・スルーキン, A. 『場面緘黙支援の最前線: 家族と支援者の連携をめざして』 かんもくネット訳、学苑社
  • 園山繁樹 『場面緘黙支援入門: 園や学校でおしゃべりできない子を支える』 学苑社
  • 金原洋治・高木潤也 『子どもの場面緘黙サポートガイド: アセスメントと学校・家庭での支援』 合同出版
  • かんもくネット著・角田圭子編 『場面緘黙Q&A: おしゃべりできない子たちへの理解と支援』 学苑社