場面緘黙とは?
自宅や心の落ち着く場所では楽しく普通の声の大きさでおしゃべりできている子どもたちが、学校や集団の中に入ると、とたんにしゃべることが出来なくなることがあります。
こういった症状のことを場面緘黙(選択性緘黙)と呼びます。
機能的には話すことが出来るのに、不安や恐怖のために話すことが出来なくなっている状態なのです。
場面緘黙は情緒障害に分類されており、自ら話さないのではなく、話したくても話せない状態だと考えられています。
American Psychiatric Association(2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders. Fifth Edition: DSM-5. Washington, D.C
Angela E. McHolm・Charles E. Cunningham・Melanie K. Vanier (2005). HELPING YOUR CHILD WITH SELECTIVE MUTISM
『場面緘黙児への支援』田研出版 河合英子・吉原桂子 共訳(2007). PP.16
最近では必ずしも「恐怖」を感じているというわけではないものの、強い不安による症状であることは間違いないようです。
場面緘黙児の示す様子は実に多様です。
学校では先生や友達と雑談は出来ないけれど、手を挙げて発表や音読ができる子。
学校ではまったくお話ができず、発表もできないけれど、校外では友達とお話ができる子。
学校では話すことはおろか、給食を食べる、トイレに行くなどの動作も抑制されてまともにできない子。
など、表出する様子は実に様々です。
一概にお友達と話せているから…学校で発表しているから…といって、放置するのは適切な対応と言えないことが多いです。
少しでも話すことが出来ない「場面」があるのであれば、
寄り添い支援していく姿勢が必要だと思います。
場面緘黙の診断基準
- 他の状況で話しているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況(例:学校)において、話すことが一貫してできない。
- その障害が、学業上、職業上の成績、または対人コミュニケーションを妨げている。
- その障害の持続期間は、少なくとも一ヶ月(学校の最初の一ヶ月だけに限定されない)である。
- 話すことが出来ないことは、その社会的状況で要求されている話し言葉の知識、または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではない。
- その障害は、コミュニケーション症(例:小児期発症流暢)ではうまく説明されず、または自閉スペクトラム症、統合失調症、またはほかの精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。
高橋三郎・大野裕監訳(2014). DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院
一ヶ月以上もお話しできない「場面」があり、そこでの生活の妨げになっている。
その理由が言葉を知らない、機能的に話せない、他の病気のせいではないというのが診断基準となります。
場面緘黙の発症率は?
調査によってばらつきはあるものの、日本ではこれまで0.2~0.5%とされてきました。アメリカのマスコミは0.7%という調査結果をあげることが多いようです。ほとんどの報告で男児よりも女児に多くみられます。発症率のばらつきは、地域差だけでなく、調査方法(調査対象・場面緘黙の定義とその解釈・除外診断の有無)や人前で話さないことを問題視する文化かどうかも影響するのではないかと思われます。
『かんもくネット』HP ”場面緘黙とは” ”発症率” より抜粋
統計局によれば、現在3歳~14歳までの児童の数は約1,260万人。今も25,000人~63,000人の場面緘黙の児童がいることになります。
私立、国公立を合わせた幼、小中学校の総数はおよそ45,000校ですので、各学校に1人はいると思ってよいでしょう。
その割には知名度が少なく感じます。行動が抑制されることで目立たないため、問題視されにくく、見過ごされがちなのですね。
入園、入学をきっかけに発症する例が多いようですが、学校の途中年度から発症する例もあるようです。
自分らしく生きるために
場面緘黙の症状は状況によって様々ですが、進学、進級など環境変化によって緩和することも、さらに悪化することもあります。
どのような状況であっても、子ども達は自分が話せないことを自覚していて、「普通に話したい」と考えています。
「話したい」と思いながら「話せない」子どもたちは「自分らしく」いられない状態で毎日を過ごしています。
学校の先生や医療機関などの指導者の協力を得ながらの適切な支援が必要です。
いつか話せるようになる?
多くの場面緘黙児は周囲の適切な支援や、自分の中できっかけを作って8割以上が社会人になるまでにしゃべることが出来るようになると言われています。
一方で大人になっても症状が継続している人もいます。
また、最低限人前で話すことは出来るようになったけれど、人と対した際の過度な緊張や不安が残り、日常生活に支障をきたしている人、自己肯定感が極端に低く鬱症状に悩まされている人もいます。
最近では、成人以降も続く重い症状がある方でも訓練によって、
症状が改善したという研究結果も出ています。
取り掛かるのが早ければ早いほど改善しやすいとの報告もあります。
場面緘黙は個性?それとも病気?
場面緘黙は現在「情緒障害/不安障害」として発達障害者支援法の対象となっています。
場面緘黙に限らず我々は様々な病気や生まれつきの心身の機能不全も含めた「個性」を認めつつ、社会参加を阻害している「障害」を除去する世界を目指しています。しかし場面緘黙はその子の本当の「個性」と言えるでしょうか?
もし子どもが家の中では、安心する人となら楽しく話すことが出来ているなら、その姿こそがその子の本来の姿=個性であると思います。
私たち『静岡 場面かんもくの会』では「場面緘黙」は子どもの「個性」を阻害する「症状」であると捉えています。
「症状」であるのならば適切な介入を行い「治す」必要があります。
保護者も本人もその「症状」を正しく理解した上で、時間をかけて場面緘黙を克服し、どんな場所であっても本来の「個性」を発揮できるようになってもらいたいと考えています。
よくある誤解について
場面緘黙について過去にはさまざまな誤解がありました。未だにそういった誤解を元にお話しされる方もおられます。
『かんもくネット』HPではこうした誤解についてわかりやすく解説してくれていますので、リンクを参照してください。
以下、一部抜粋して紹介させていただきます。
- 大人しいだけ。ほっておいても、そのうちしゃべるようになる。 ⇒ 早い時期からの支援が大切です。
- 家庭で甘やかしすぎ、過保護なのでは? ⇒ 古い研究にもとづいた誤解です。家庭環境は関係ありません。
- わざと黙っている。 ⇒ (しゃべれないことを)反抗的だと誤解されることがあります。
- 自分から友達の輪の中に入るよう努力すべき。 ⇒ 本人の努力だけでは改善は難しく、適切な支援が必要です。
- 話すように言うべき。 ⇒ 発話ばかりに注目しないことが大切です。話すようプレッシャーを与えると症状が悪化します。
- 特別扱いしてはいけない。 ⇒ 特別扱いではなく、十分な配慮と支援が必要です。
『かんもくネット』HP ”場面緘黙とは” ”よくある「誤解」” より抜粋
「場面緘黙」は話さないのではなく、話せなくなる症状です。
本人の意志ではどうしようもなく、改善するためには周りの支援と配慮が不可欠です。
家庭環境や育て方は関係ありません。
およそ500人に1人の割合で発生するもので、時間をかけて支援を続ければきっと良くなります。
もっと詳しく…
「静岡 場面かんもくの会」では今後も場面緘黙に関する様々な情報を提供してまいります。
こちらよりご参照ください。