場面緘黙は現在(2021年)、法的には「発達障害」に分類されています。
障害という言葉にネガティブなイメージを持たれる保護者の方々もおられるかと思います。
が、そもそも障害とは何なのでしょう?良く知れば何となく抱いているネガティブなイメージがなくなるかもしれません。
『静岡 場面かんもくの会』では「しょうがい」を「障害」と表記しています
「障害者基本法」では以下のように定義されています。
身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
『日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態』であるというこの定義は英米の障害学における社会モデルが背景にあります。
英米の二つの社会モデル
かつて、障害とは個人の心身の機能制限により生じるものであるという考え方が主流でした。
歩けない・見えない・聞こえない・話せない・コミュニケーションが苦手…。
それらは、個人の機能障害による問題であるとされ、医学によって解消するものだと考えられていました。
これを「医学モデル(個人モデル)」と呼びます。
しかし近年、障害とは個人の機能障害ではなく、それによって社会への参加制約が生じることをそのものを「障害」と呼ぶのだという考え方が主流となってきました。
これを「社会モデル」と呼びます。
イギリスではかつて、障害を医学的な診断に基づきカテゴリ分類して認識していました。しかし、1995年「障害差別禁止法」の制定において、それ以前より「教育法」などでも取り入れていた社会モデルを最優先する方針に切り替えました。
障害を考えるとき、機能障害(impairment)と社会参加への制約(disability)は対立する二元論であり、参加制約を除去することを最優先としたのです。
一方、アメリカでは1990年に成立した「障害をもつアメリカ人法」において「合理的配慮」の概念を取り入れ、障害を個人の属性と環境との相互作用によって発生するものであるとしつつも、参加制約の除去を優先とすることとしました。これは「相互作用モデル」と呼ばれます。障害を否定的にとらえるのではなく、民族や出自といった属性と同様にとらえようという考えに基づいています。
障害の捉え方にわずかな違いはあれど、まず参加制約の除去を優先するという方針に違いはありません。
「歩くことができない」とき、手術して歩けるようになる(医学モデル)、エレベーターやスロープを付けて行く事の出来ない場所を無くす(社会モデル)ことで障害をある程度は減らすことが可能ですが、車椅子で買い物したいとき上段の商品までは手が届かないですよね?
障害を無くすといっても、その実現がどれほど難しいことか分かりますね。
日本の障害についての捉え方
2006年 国連総会においてアメリカ型の「相互作用モデル」を参考にした「障害者権利条約」が採択され、日本も2007年にこれに署名しました。
2014年に批准書を寄託して、同年 2月19日から日本でも「障害者権利条約」が効力を発生しています。
障害者権利条約に批准したことで2016年には「障害者差別解消法」が施行されました
今日では日本における「障害」も「社会的な障壁(参加制約)」を意味しています。
場面緘黙も「話せない」ことで学校、職場などでの参加制約があることを考えると、
「障害」であると言えますね。
現実的にすべての「障害」を無くすことはとても難しいと思われます。
単純にスロープや点字ブロックを増やすだけではありません。
例えば「アラートは赤」といった当たり前だと考えていたルールや、「障害者だからこうすべき」や「障害者はかわいそう」といった偏見や無知すらも「障害」となりうるのです。
令和3年3月には民間企業の「障害者の法定雇用率」が2.2%から2.3%に引き上げられました。
ですが1987年まで、法定雇用率が1.5%だった時代からずっと今に至るまで、その基準を満たしている民間企業は全体の半数にも満たない状況です。
すべての「障害」を除去すべきとまでは思いません。
身体障害者の感じる「障害」だけでなく、知的障害者、精神障害者の感じる「不便さ」などは当事者以外には想像もつかないものでしょう。
しかし最低限の知識をもって、少しでも社会を変えていこうという思いはつなげていってもらいたいと願います。
障害(しょうがい)の表記について
「障害」「障がい」「障碍」…しょうがいの書き方にも色々あります。
内閣府は第26回「障がい者制度改革推進会議」(平成22年11月22日)の中で、『障害の表記に関する検討結果について』のレポートを発表しています。
- 障碍:もともとは仏教語で「物事の発生・持続にあたってさまたげとなるもの」を意味する「しょうげ」が、明治以後に「しょうがい」と読まれるようになった。常用漢字ではないため、使用される機会もなくなったが、「壁」を意味する「碍」がまさしく社会の障壁であるという理由で使用する団体もある。また、中国や台湾、韓国などの漢字文化圏では「障碍・障礙」と表記されるため、日本も同様にすると良いという意見もある。
- 障害:江戸末期にはすでに使用されていたが、障碍(しょうげ)を「しょうがい」と呼ぶようになり一時期は「障害」「障碍」と併用していた。しかし大正時代には「障害」が一般的となっていった。法令では常用漢字を使用するため「障害」と表記している。英語条文では障害者を「Persons with Disabilities」と表記するため、社会モデルの観点からも「障害者」がもっとも当てはまるともいわれる。
- 障がい:障害の「害」という文字に負のイメージがあるとして、新聞、地方自治体を中心に「がい」とひらがな表記するようになった。自治体では2000年12月に東京都多摩市が公文書の表記を「障がい」に統一すると発表した。
レポートでは表記も立場や団体によっていろいろですが、よりよい表記を模索しましょうね…と締め括られてます。
『静岡 場面かんもくの会』では法令で使用されてきた「障害」という表記を社会モデルの観点からも採用しています。